Created on October 11, 2023 by vansw
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下ごしらえ
した
が終わると、庭の物干しに洗濯物を干した。 それから、FMラジオでアレクサンドル・ボロディ ンの弦楽四重奏曲を聴きながら、何枚かのシャツとシーツにアイロンをかけた。シーツにアイロ ンをかけるには時間がかかる。
ラジオの解説者は、当時のロシアではボロディンは音楽家としてよりは化学者として広く知ら れ、 また尊敬もされていたと語っていた。 しかし私の聴くところ、 その弦楽四重奏曲には化学者 らしいところはまったく感じ取れなかった。 滑らかな旋律と、優しいハーモニー…そういうの があるいは化学的な要素と言えるのかもしれないけれど。
アイロンをかけ終えると、私はトートバッグを手に買い物に出た。 スーパーマーケットで必要 な食品を買い込み、うちに帰って食事の下ごしらえをした。 野菜を洗って仕分けし、肉と魚をラ ップに包み直し、冷凍するべきものは冷凍した。鶏ガラをつかってスープを作り、カボチャと人 参を下茹でした。そのように家事をひとつひとつこなしながら、少しずつ普段の自分を取り戻し ていった。
私のクラシック音楽に関するかなり乏しい知識によれば、アレクサンドル・ボロディンはいわ ゆる「ロシア五人組」の一人であったはずだ。あとは誰だっけ? ムソルグスキー、 それからリ ムスキー=コルサコフ・・・・・・そのあとが思い出せない。 私は冷蔵庫の整理をしながらなんとかその 名前を思い出そうと努めたが、どうしても思い出せなかった。思い出せなくてもこれといって支 障はないのだが。
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