Created on October 11, 2023 by vansw

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いね。 彼が夜のあいだにどうやって一人で家から出て行ったのか、説明がつかないということだ った」


「それが謎なんだ」


「もともとがかなり謎に満ちた子供であったように見受けられたけど」


私は肯いた。「不思議な能力を身につけた子供だった。普通の子供とはずいぶん違っている。 この世界を、ぼくらとは違う目で見ているようなところがあった」


彼女は洗い物の手を休め、顔を上げてしばらく私の目を見ていた。


「ねえ、今日の夕方、店を閉めてからちょっとお話しできないかな? もしそんな暇があるなら、 ということだけど」


「もちろん暇はある」と私は言った。 日が暮れたあと、私が予定していることと言えば、FM放 送のクラシック音楽番組を聴きながら本を読むくらいだ。


「じゃあ、いつものように六時に店を閉めるから、その少しあとでここに来てくれる?」


「いいよ」と私は言った。 「六時少しあとにここに来るようにする」


「ありがとう」


お昼時になって店が混んできたので、私は引き上げることにした。 彼女はブルーベリー・マフ インをひとつ、持ち帰り用の紙袋に入れてくれた。


帰宅すると、まず溜まっていた一週間ぶんの洗濯をした。 そして洗濯機がまわっているあいだ に床に掃除機をかけ、 浴室をきれいに磨いた。 窓ガラスを拭き、ベッドをきれいに整えた。 洗濯


533 第二部