Created on October 11, 2023 by vansw

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彼女は言った。「そしてそのついでに、私の誕生日の曜日を教えてくれた」


「誕生日の曜日を教えるのはいわば、あの子にとっての初対面の挨拶のようなものなんだ。 彼な りの親しみを相手に示すための」


「かなりユニークな挨拶と言うべきよね」


「たしかに」


「そしてその二人のとても感じのいい兄弟は、自分たちのユニークな末の弟が、 なぜあなたとい う新来の人物に対してかくも強い関心を抱くのか、理由を知りたがっているように見えた」 「あの子が関心を抱く相手は数多くはないようだから、きっと意外だったんだろうね。なぜこの ぼくなのか、と」


「そうね。口ぶりからするとどうやら、あの子は二人のお兄さんたちに対しても、それほど関心 は抱いていないようだった。同じ屋根の下で暮らしていても、親しく口をきくようなことはあま りなかったんじゃないかしら。あくまで私の個人的な印象に過ぎないけれど」


「君はなかなか観察眼が鋭そうだ」


「観察眼というほどのものでもない。 でもこんな商売をやっていると、そういう勘みたいなのが だんだん身についてくるのよ。 いろんな人がやって来て、いろんな話をする。私はただうんうん と聴いているだけ。話の内容はたいてい忘れてしまうけど、印象だけは残る」


「なるほど」


「そんなわけで、その二人の礼儀正しいハンサムな青年たちは、近いうちあなたに会いに、あな たの図書館を訪ねていくかもしれない。 行方不明の弟を捜す手がかりを得るために」


529 第二部