Created on October 11, 2023 by vansw

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もちろんそれは私の個人的な推測に過ぎない。根拠を示すことはできないし、 論理立てて説明 することもできない。しかし私にはわかっていた。少年は既にその街に移って行ってしまったの だ。間違いなく。 その完璧なまでの姿の消し方を考えれば、ほかに説明のつけようがないではな いか。 彼は心から真剣に「街」に行くことを望んでいたし、求めていたし、おそらくは生まれつ き具わった異様なまでの集中力が、 彼にそうすることを可能にさせたのだろう。そう、言い換え るなら、彼は「街」にたどり着くための資格を具えていたのだ。かつては私自身も手にしていた はずのその資格を


私はイエロー・サブマリンの少年がその街に入っていくところを思い浮かべた。


少年は入り口の門であの頑丈な体つきの門衛に会い、そこで影を引き剥がされ、眼を傷つけら れることだろう。私がそうされたのと同じように。街は〈夢読み〉を必要としているし、彼はお そらく私の後継者としてすんなり受け入れられることだろう。 そしておそらくは・・・・・・いや疑いの 余地なく、街にとって私より遥かに有能で有益な 〈夢読み〉となるはずだ。 彼はものごとの成り 立ちを、瞬時に細部まで把握する特殊な能力を有しているし、それに加えて疲れること、飽きる ことを知らない強烈な集中力を持ち合わせている。 そしてこれまでその頭に注入された膨大な情 報によって、彼自身が既にひとつの図書館いわば知識の巨大な貯水池となっているはず だ。


イエロー・サブマリンのパーカを着た少年が、あの図書館の奥で 〈古い夢〉を読んでいる光景 を私は思い浮かべてみた。 彼の隣にはあの少女がいるのだろうか? 彼女はやはりストーブに火 を入れ、彼のために部屋を暖め、その弱い眼を癒やすために、濃い緑色の薬草茶をこしらえてく


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