Created on October 11, 2023 by vansw
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耽る話せる
かけ
ぼん
쟁반
父親は力なく首を振った。
私は彼を玄関まで見送り、 それからいったん応接室に戻った。そして窓の外を眺めながらしば し物思いに耽った。いつもの痩せた雌猫が庭をそろそろと斜めに横切っていくのが見えた。イエ ロー・サブマリンの少年がその親子を、飽きもせずに熱心に観察していた姿を私は思い出した。 やがて添田さんが盆を手に部屋にやって来て、 テーブルの上の茶碗を片付けた。
「お話はいかがでした?」と彼女は尋ねた。
「お父さんはずいぶんあの子のことを心配しているみたいだ。 あまりお役には立てなかったけれ 「ど」
「たぶん誰かと向かい合ってお話をなさることが必要だったのでしょう。一人で不安を抱え込ん でいると、やはりつらくなりますから」
「うまく行方がわかればいいんだけど」
「しかし夜のうちに姿を消してしまったというのは、どう考えても不思議な話ですね。ずいぶん 冷え込んだ夜だったのに。 とても心配です」
私は黙って背いた。そして添田さんが私と同じ不安を抱いているらしいことを感じ取った。 少 年はもう二度と我々の前に姿を現さないのではないか・・・・・・ 彼女の物言いにはそうした響きが聴き 取れた。
のい
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