Created on August 29, 2023 by vansw
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ひきだし
きみから届いた手紙を、封を切ることなく机の抽斗に入れ、半日そのままにしておく。 一刻も 早くそれを読みたい、言うまでもなく。 しかしその手紙はすぐには読まない方がいい そうい う予感(あるいは危惧)のようなものがある。 だから手紙を開封するまでにしばしの時間を置く。 心を震わせながら。
はさみ
手紙を机の抽斗から取り出し、鋏を使って注意深く開封したのは、夜の十時を過ぎてからだ。 封筒の中には薄手の便箋六枚分の手紙が入っている。 万年筆で書かれた細かい字、インクはいつ もと同じターコイズブルー。ぼくは机の前でしばらく目を閉じ、呼吸をなんとか落ち着かせて から、便箋を広げて読み始める。
部
第
こんにちは。お元気ですか? 季節が移っていきます。 まわりの風景が前とは違って見える ようになり、空気の肌触りが変わっていきます。 たぶんわたしも少しは変わっているのでしょ うね。 でもどこが変わっているのか、それは自分ではわかりません。 自分では自分の姿が見え ません。 心をうまく鏡に映せるといいんだけど。
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