Created on October 11, 2023 by vansw

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様子を見に行くと、ベッドはもぬけの殻で、どこにも彼の姿は見当たらなかったということです。


母親はすっかり取り乱していますが、 話を総合すると要するにそういうことのようです」


「夜のあいだに彼は家から出て行ってしまったということ?」


添田さんは首を振った。 「そんなわけはないと母親は主張しています。M* *くんはパジャマ だけの格好で寝ていましたし、それ以外の服はいっさい持ち出していないということです。 コー トもセーターもズボンも、何ひとつ。つまり彼は夜のうちに、パジャマ姿でいなくなってしまっ たわけです。 昨夜はずいぶん冷え込んでいましたから、そんな薄着で外に出られるわけはないし、 もし出ていたなら今頃はきっと凍死しているはずだと彼女は言います。 そして家の出入り口と窓 は、すべて内側から鍵がかかったままになっていました。 間違いなく。 母親はとても用心深い人 で、寝る前に必ず家内すべての戸締まりを確かめるのだそうです。つまり、彼がどこかの戸や窓 を開けて、そこから外に出て行ったということは考えられません。にもかかわらず、あの子は消 えてしまったんです。 煙のように」


私は頭の中でその話を順序立てて整理してみた。 「だとしたら、家の中のどこかに身を潜めて いるんじゃないのかな?」


添田さんはまた首を振った。 「家中、隅から隅までみんなで探し回りました。床下から天井裏 まで。でもどこにもその姿は見当たりません」


「不思議な話だ」と私は言った。「それで捜索願いみたいなのは出したのかな」


「ええ、警察にはすぐに届けを出したそうです。 でもなにしろ子供がいないことがわかってから まだ数時間しか経っていませんし、今のところ誘拐とかそういう事件性もなさそうですし、もう


509 第二部