Created on October 11, 2023 by vansw

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「昼休みに、あの子のおうちに電話をしてみました」と彼女は言った。「そして母親と話をした


のですが、どういうことなのかさっぱり要領を得ません」


「要領を得ない?」


「ええ、何を言っているのか理解できないのです。 ずいぶん取り乱しておられるみたいで。 何か が起こったみたいですが、それがどんなことなのか電話ではらちがあきません。 おうちにうかが って話を聞いた方がいいかもしれません」


「そうだね」と私は言った。 「添田さん、 あなたが足を運んでみた方がいいと思う。しばらくか わりにカウンターに入っているから」


「わかりました。 何があったのかちょっと様子を見てきます。 あとのことはお願いします」


添田さんは控え室に戻ってコートを着て、急ぎ足で図書館を出て行った。 私は一階のカウンタ で、一時間ばかり彼女の代役を務めていた。とはいっても暇な平日の午後だったので、私がや ることはほとんどなかった。人々は暖かな閲覧室で、ただ静かに本を読んだり書き物をしたりし ていた。


添田さんが戻ったのは午後二時前だった。彼女は控え室に行ってコートを脱ぎ、それから頬を いくらか紅潮させて私の前にやって来た。 そして緊張を含んだ声で言った。


「話を整理しますと、あの子はどうやら昨夜のうちに姿を消してしまったようです」


「姿を消した?」


「ええ、 月曜日の朝から、いつものように高熱を出して寝込んでいたのですが、 今朝早く部屋に