Created on October 11, 2023 by vansw
507
しておいた方がいい。 その名前もできれば口にしない方がいい。どうしてだか理由はわからない けれど、そんな気がした。 墓地を訪れることも、しばらくは控えた方がいいかもしれない。
イエロー・サブマリンの少年は、翌日も図書館に姿を見せなかった。またその翌日も。
木曜日の昼前、少年の姿がやはりいつもの席に見当たらないことを知って、私は添田さんのと ころに行って尋ねてみた。 三日も姿を見せないなんて、あの子はいったいどうしたんだろうね、
と。
「またしばらく横になって寝たっきり、ということになったのではないでしょうか」と添田さん は言った。「熱心に本を読みすぎて、おそらくは頭脳のオーバーワークで」
「でも、前回のバッテリー切れから数えて、それほど日にちは経っていないようだけど」
添田さんは眼鏡のブリッジを指で軽く押した。 「ええ、確かにそうですね。いつもに比べて間 隔が少し短すぎるような気がします」
「心配するほどのことはないのかもしれないけど、でも何日かあの子の姿が見えないと、なんだ か気になってしまうんだ」
「そう言われれば私もいささか気になります。 あとで母親に電話をして様子を聞いてみましょ う」、添田さんは唇をまっすぐに結び、四、五秒考えてからそう言った。 そしてやりかけていた 仕事に戻った。
昼休みのあと、私が仕事をしている半地下の部屋に添田さんが顔を見せた。
507 第二部