Created on October 11, 2023 by vansw

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込まれるように。 あとには古い木製の椅子だけが残った。 私は長い間その椅子を見つめていた。 子易さんがもう一度姿を現して、何か言い残した言葉を投げかけてくれるのではないかと期待し て。 しかしどれだけ待っても、彼はもう姿を現さなかった。 古い木製の椅子が沈黙の中に空しく 置かれているだけだった。


彼は間違いなく永遠に消えてしまったのだと私は悟った。この世界から最終的に去っていった のだ。それは何より切なく悲しいことだった。おそらく、どんなほかの生きている人間が死んで しまったときよりも。


ストーブがまた猫のうなり声のような音を立てた。外では風が舞っているのだ。私はストーブ の火が消えたのを見届け、 図書館を出て家に帰った。


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