Created on October 11, 2023 by vansw
502
「そのとおりです」と子易さんは言った。「彼はその街に行く道筋を自分で見いだしていくこと でしょう。それにはおそらくあなたの助力が必要となりますが、それがどのような助力なのか、 それも彼自身が自らの力で見いだすはずです。 あなたが判断を下す必要はありません」
私は子易さんが言ったことについて私なりに考えを巡らせてみたが、それが何を意味するのか 十分理解はできなかった。 論理の順序がうまく見えない。
子易さんは続けた。
「よろしいですか、 あなたは既にじゅうぶんに彼の手助けをなさっておられるのです。 なぜなら ば、あなたはあの少年の意識の中に、その「高い壁に囲まれた街』を打ち建てられたのですから。 その街は今では彼の中に生き生きと根付いております。 この世界よりも遥かに生き生きと」
私は言った。「つまり、私の中にあったその街の記憶が、彼の意識にそのまま移されたという ことなのでしょうか? 立体的に転写されるみたいに」
「はい、彼には生まれつき、そういう正確無比な転写能力が具わっているのです。 このわたくし も、ああ、及ばずながらいくらかその手助けのようなことをしたかもしれませんが」
「でもそれは、そっくりそのままの転写というのではないはずです。 なぜならその街に関する私 の知識は完全なものではないし、また私の記憶は正確なものとは言えないから」
子易さんは肯いた。「はい、彼の中に打ち建てられたその街は、あなたが実際に暮らしておら れた街とは、いろんなところが少しずつ異なっているかもしれません。 成り立ちの基本は同じで すが、細かい部分は彼のための街として作り直されているはずです。そのための街でありますか ら」
502