Created on August 29, 2023 by vansw

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は、永遠に消えたままです。そういうありようを受け入れていくしかありません」


部屋は次第に暗さを増していった。そろそろ門衛が戻ってくるかもしれない。


「ここはなんだかテーマパークに似ていると思いませんか」と影は言って、力なく笑った。 「朝 に門が開いて、日が暮れれば門が閉まる。 書き割りみたいな光景が至るところに広がっている。 単角獣までうろうろしている」


「少し考えさせてくれないか」と私は言った。 「考える時間が必要なんだ」


「あんたはどうして獣たちが、こんなに簡単にばたばた死んでいくと思いますか?」


わからない、と私は言った。


「彼らはいろんなものを引き受けて、何も言わずに死んでいくんです。 おそらくはここの住人た ちの身代わりとしてね。 街を成り立たせ、このシステムを維持するためには、誰かがその役目を 引き受けなくちゃならない。 そして気の毒な獣たちがそいつを引き受けているわけです」


部屋の中はさっきよりも一段と冷え込んでいた。私は身震いをし、 コートの襟を合わせた。 「もちろん」と影は言った。「考える時間は必要でしょう。 いいですよ。 時間ならこの街にはい くらでもあります。 しかし残念ながら、おれにはそれほどの余裕はありません。 一週間のうちに どちらか決めて下さい」


私は肯いた。そして影をあとに残し、 門衛小屋を出て図書館に向かった。途中で四頭ばかりの 獣の群れとすれ違った。 彼らが背後に姿を消したあとでも、蹄がかたかたと敷石を打つ乾いた音 が耳に届いた。


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