Created on September 25, 2023 by vansw
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うと誘われても、単身あとに残ることを選ばれた。そうですね? 結果はともかくとして」
私はゆっくり息を吸い込み、そして吐いた。 深い海の底から浮上してきた人のように。賞会 「そのとおりです。 しかし私自身、自分の決断が正しかったかどうか、今でもなお判断に苦しん でいます。 果たしてその街に留まるべきだったのか、それともこちらに戻るべきだったのか。 結 果的には下した決断とは関係なく、このようにこちらにはじき返されてしまったわけですが......。 ですから、あの少年がその街に入ることができたとして、果たしてそこでの生活に溶け込めるか どうか、予測がつかないのです」
今では子易さんは目をしっかりと見開き、天井の片隅を見つめていた。そこに何か特別なもの が潜んでいるかのように。私もその場所に目をやった。 しかし特別なものは何も見えなかった。 ただ天井の片隅があるだけだ。
「そうしてあなたは判断に苦しんでおられる」と子易さんは言った。
「そうです。 どうしたものか、判断に苦しんでいます。 彼の願望をかなえてやっていいものかど うか。あの少年を、というか一人の人間存在を、 こちらの世界から消し去ってしまう手助けをし ていいものかどうか」
「よろしいですか」、子易さんは言葉を強調するように指を一本立てて言った。「よろしいですか、 ああ、あなたは判断に苦しむ必要などありません。なぜならば、あなたには判断を下す必要もな 「いからです」
「しかしあの子は私に、その街まで導いてもらいたいと求めています。彼はそこへの行き方を知 らないからです」
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