Created on September 25, 2023 by vansw

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いるように見えた。 じっと見ていると、向こう側が透けて見えそうに思えるほどだった。映画の


フェイドアウトの最初の段階みたいな感じだ。


「お久しぶりです」と私は言った。「子易さんにお目にかかれないと寂しいです」


子易さんは微かな笑みを口元に浮かべた。 表情の動きは弱々しい。


「そう言っていただけるのはなにより嬉しいのですが、わたくしは所詮、既に死んでしまった人 間です。こうしてあなたにお目にかかれるのは、あくまでいっときの出来事に過ぎません。猶予 期間のようなものを、特別に与えてもらっているだけのことです」


特別に与えてもらっている、と私は彼の言葉を頭の中で反復した。いったい誰に? でもそん なことを尋ねていたら、話が長くなってしまう。私には話さなくてはならない大事なことがあっ た。


私は言った。「あなたがいらっしゃらない間に、いくつかのことが起こりました」


「はい。 わたくしもおおよそのところは理解しておるつもりでありますが、 ああ、やはりあなた の口から説明していただいた方がよいかもしれません。 誤解があるといけませんので」



私はイエロー・サブマリンのパーカを着た少年と言葉を交わしたことを話した。 そして少年が この世界を離れ、「壁に囲まれた街」に移りたいと思っていることを。 子易さんは腕組みをして、 私の話を黙って聞いていた。 相づちを打ったりもしなかった。 時折ほんの小さく肯くだけだ。 そ の目は終始閉じられ、眠っているのではないかと思ったほどだった。 しかしもちろん眠ってはい なかった。 余計なエネルギーを使わないように動作を控えているだけだ。


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私が話すべきことを話し終えると、子易さんは腕組みをしたまま、それについてしばらく考え



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