Created on September 25, 2023 by vansw

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「お待たせをいたしました」と子易さんが言った。


私は物思いからはっと目覚め、あわててあたりを見回した。 子易さんは暗い片隅に置かれた、 古い木製の椅子の上に腰掛けていた。紺色のベレー帽をかぶり、 格子柄のスカートをはき、ツイ ードの上着を着ていた。 そして白い薄手のテニスシューズ。 いつもの格好だ。コートは着ていな い。


「もっと早くここに参るはずだったのですが、 何かと妨げがあり、お待たせしてしまった」


私はうまく言葉を見つけることができず、ただ黙っていた。 ストーブに背中を向け、そこに 立ったまま子易さんの顔を見ていた。彼の顔はいつもより白っぽく、どこかしら寂しげな表情を 浮かべていた。


「かなり長いあいだ、この図書館にもうかがえなかった」と子易さんは言った。 「あなたにもお 目にかかることができなかった。こうして人の姿をとることが、だんだんうまくできなくなって きたのです。この地上を離れる時期が次第に近づいてきたのかもしれません」


そう言われてみると、子易さんの姿はいつもに比べていくぶん小さくなり、また質感を欠いて


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