Created on September 25, 2023 by vansw
482
の直接の原因になったわけ。 何かを隠すのがわりに不得意な人だったから」
「なるほど」と私は言った。
「でもその女の人とは、それほど深い関係というのではなかったみたい。ちょっとしたはずみっ ていうか、そのときの出来心っていうか。 彼も反省して、きちんと謝ってくれた。 もう二度とそ んなことはしないと約束した。 まあ、世間ではありがちな話よね。でも私の方は、気持ち的にも う元に戻れなくなっていた」
私は青いた。とくに何も言わず。
「でもいちばんきつかったのは、彼と離婚したことそのものより、自分の気持ちに確信が持てな くなったということかもしれない」、 彼女は手にしたワイングラスをじっと見つめながら言った。 「もうこの先、どんな男の人と知り合っても、そして結婚みたいなことをしても、相手の人のこ とをどれほど自分が愛していると思っていても、時間が経てばまた同じようなことが起こるんじ ゃないかって、そんな気がしてしまうのね。 以前はそんなこと考えもしなかったんだけど」 「彼のことは高校時代から知っていたんだね?」
「ええ、同じクラスだったから。でもそのときは個人的に交際していたわけじゃない。 何度か軽 く話をしたことがあるくらい。 彼のことはなかなか素敵だと密かに思ってはいたの。背が高くて まずまずハンサムで、成績も上の方だったから。でも私はバレーボール部の部活で忙しかったし、 彼もサッカー部のキャプテンをしていたし、もちろん受験勉強もあったし、一対一で親しくなる ような暇もなかったの」
「ハンサムでスポーツマンだったんだ」
482