Created on August 29, 2023 by vansw
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んでいます。ここにいる間おれなりに、街の事情を少しずつ調査したんです。 この小屋には人が ちょくちょく立ち寄るし、門衛も意外におしゃべりですから、いろんな話が耳に入ります。 地底 の暗黒の水路なんて、きっと都合の良い作り話だ。 ここには様々な作り話が満ちています。 この
街ときたら、成り立ちからして矛盾だらけですしね」
私は肯く。そうかもしれない。 影の言うとおり、この街には作り話が満ちているかもしれない し、成り立ちは矛盾だらけかもしれない。 それは結局のところ、私ときみとが二人で一夏かけて こしらえた想像上の架空の街に過ぎないのだから。 しかしそれでもなお、街は現実に人の命を 奪うことができるかもしれない。なぜならその街は既に我々の手を離れ、独自の成長を遂げてし まったからだ。いったん動き出したその力を制御したり変更したりすることは、もう私にはでき ない。誰にもできない。
「でももし彼らの言っていることが真実だとしたら?」
「そうしたら、おれたちは共に溺れ死ぬしかありませんね」
私は沈黙する。
「でもおれには確信があります」と私の影は言った。「その話は出鱈目だという確信が。でも証 明することはできません。 おれの直感を信じてもらうしかない。口はばったいようですが、影に はそういう能力がある程度そなわっています」
「でも証明はできない」
「ええ、残念ながら具体的な根拠を示すことはできません」
「できれば、真っ暗闇の中で溺れ死にたくはない」
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