Created on September 25, 2023 by vansw

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「そう言われれば」と私は言った。「たいして自慢にはならないけど」


「そういえばお仕事をまだ聞いていなかったわ」


「この町の図書館の館長みたいなことをしている。 小さな図書館だから、館長といっても名前だ けで、常雇いはぼくも含めて二人しかいない」


「ふうん、図書館長さんか。 とても面白そうなお仕事ね。 でも私はまだその図書館に行ったこと がないの。 本を読むのは好きだし、この町に図書館があるということは知っていたけど、なにし ろ毎日の仕事が忙しかったものだから」


「小さいけど、けっこう充実した内容の図書館だよ。 建物も古い民家作りの造り酒屋の建物を改 造したもので、なかなか素敵だ。 もし暇ができたら一度来てみるといい」


「図書館の館長さんになる前は、 どんなお仕事をしてらしたの?」


「大学を出てからずっと、東京の書籍販売の会社に勤めていた。 本を扱うのが好きだったから。 でも事情があってそこを辞めて、しばらく何もせずにぶらぶらしていたんだけど、この町の図書 館が人を募集しているという話を耳にして、 それに応募してみたんだ」


「都会暮らしがいやになったとか?」


「いや、そういうのでもない。 図書館で働きたくて、就職先を探していて、 人を募集していたの がたまたまこの町だった。 都会でも田舎でも、北でも南でも、どこでもよかったんだけど」 「私は二年ほど前に離婚したの」と彼女は路面の凍り具合を確かめるように、注意深く足元を見 ながら言った。「それでまあ何かと面倒なことがあって、しばらく気分的にけっこう落ち込んで いたの。何をする気も起きなくて。で、どこでもいいから、札幌から遠く離れたところに行って


調


二 第