Created on September 25, 2023 by vansw

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序よく収納するための時間を設けることも、少年には必要であったはずだから (スーパーマーケ ットで買ってきた食材を仕分けし、冷蔵庫に収納するのと同じように)。でもそんなことはみん な私の勝手な推測に過ぎない。少年の脳内で実際に何がどのように進行しているのか、それは彼 自身にしかわからないことだ。


それでも私は目を閉じ、孤独な少年の内部に打ち立てられた知の柱とでも呼ぶべきもの)の 姿を思い描かないわけにはいかなかった。 それは地底の闇の奥に聳える、巨大な鍾乳洞の柱のご ときものなのだろう。 人が未だ足を踏み入れたことのない漆黒の暗闇に、誰の目に触れることも なく堂々と屹立している。 その暗闇の中では、 二百年など取るに足らない時間なのかもしれない。 あるいは彼は、「壁に囲まれた街」に入っていくことによって、その「知の柱」 を有効に活用 できるようになるかもしれない。そこに知のアウトプットの正しい道筋を見いだすことになるか もしれない。


イエロー・サブマリンの少年・・・彼自身がそのままひとつの自立した図書館になり得るのだ。 私はそのことに思い当たり、大きく息を吐いた。


究極の個人図書館。


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