Created on September 25, 2023 by vansw

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けにして冷蔵庫に収め、必要な下ごしらえをした。 それから掃除機を使って部屋の掃除をし、 浴 室をきれいにして、シーツと枕カバーを交換し、溜まっていた洗濯物を洗った。 ついでにアイロ ンもかけた。いつもの月曜日と同じ手順で。すべての作業は無言のうちに要領よくなされていっ た。いつもと同じように。


三時過ぎに一通りの作業を終えると、日当たりの良いところに読書用の椅子を置いて、 読みか けていた本を開いた。 しかしなぜか読書に気持ちを集中することができなかった。それはいつも と同じ月曜日ではなかったからだ。 私は一人の女性を食事に誘っていた。 そして彼女は (数秒の ためらいの後に)誘いを受けてくれた。 それは私にとって何か大事なことを意味しているのだろ うか? あるいはそれはものごとの大きな流れとは関わりを持たない、ささやかな脇道的エピソ ードに過ぎないのだろうか? だいたい「ものごとの大きな流れ」なんてものが私の周りに存在 するのだろうか?


そんなことをぼんやり考えながら、夕方までの時間を送った。 ラジオをつけると、FM放送で イ・ムジチ合奏団の演奏するヴィヴァルディの『ヴィオラ・ダモーレのための協奏曲』がかかっ ていたので、それを聴くともなく聴いていた。


ラジオの解説者が曲の合間に語っていた。


「アントニオ・ヴィヴァルディは一六七八年にヴェネチアに生まれ、その生涯に六百を超える数 の曲を作曲しました。 当時は作曲家として人気を博し、また名ヴァイオリン奏者としても華やか に活躍していたのですが、その後長い歳月まったく顧みられることなく、 忘れ去られた過去の人 となっていました。しかし一九五〇年代に再評価の機運が高まり、とりわけ協奏曲集「四季」の


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