Created on September 25, 2023 by vansw
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りが希薄であったとしても、彼がいなくなれば両親や兄たちは肉親として深く悲しむに違いあり ません。だから私としては子易さんの意見がうかがいたかったのです。 もし今、私の言うことが 耳に届いていたとしたら、 忌憚のない助言をいただきたいのです。いったいどうすればいいのか、 正直なところ途方に暮れています。
それだけを語り終えると、墓石の前の石垣に腰を下ろして何らかの反応が戻ってくるのを待っ た。しかし半ば予想していたとおり、反応はなかった。 ただ空を雲がゆっくりと流されていくだ けだ。 山の端から、もう一方の山の端へと。 その朝はなぜか、 鳥たちの声さえ聞こえなかった。 ただ墓地の沈黙があるだけだ。
その墓石の前で三十分ばかり、 沈黙のうちに時間を過ごした。 涸れた井戸の底に、一人で膝を 抱えて座っているみたいに。そのあいだ何ごとも起こらなかった。 ただ頭上を灰色の雲がゆっく り流れ、時計の長針が文字盤を半周しただけだった。 それ以外に動きらしいものはない。
時折顔を上げてあたりに素速く視線を投げたが、イエロー・サブマリンの少年の姿はどこにも 見えなかった。墓地には私以外の人影はなかった。 私は石垣から立ち上がり、しばらく冬の空を 見上げ、それからマフラーを首に巻き直し、 ダッフルコートについた枯れ葉のかけらを手で払っ た。
子易さんの魂はおそらくもうこの世界を離れてしまったのだろう。最後に彼と会って話をして から長い時間が流れている。 そしてイエロー・サブマリンの少年もまたこの地上から去りたがっ ている。彼ら二人が実際に(永遠に)いなくなってしまったとして、そのあとも私はここで生き
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