Created on September 25, 2023 by vansw

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月曜日が来ると、私はいつものように朝のうちに子易さんの墓所を訪れた。 そして墓石に向か って少年の話をした。 彼が「高い壁に囲まれた街」に行きたいと望んでいること。 私にそこまで 連れて行ってもらいたいと頼んできたこと。でも今のところ私には、彼の願いをかなえてやるこ とはできそうにない。なぜなら、まずひとつには、私はそこへの行き方を知らないから。


あの少年は子易さんもご存じのようにこの世界においてはどこまでも孤独な存在です。 この世界を離れ、「高い壁に囲まれた街」に移行するのが、自分にとってより自然で幸福なこと だと固く信じています。


たしかにそうかもしれない、この現実の世界は彼のための場所ではないかもしれない。 血を分 けた家族をも含めて、誰にも正当には理解されていません。 彼の持ち合わせたとくべつな能力は、 あちら側の世界においての方が適切に生かせるかもしれません。



でももし仮に私にそんなことができたとしても彼の「移行」に手を貸すことが適切な 行いなのかどうか、確信が持てないのです。 そんなことをする資格が私にあるのかどうか。 なん といっても彼はまだ十六歳の少年です。 彼のことを十分理解していないとしても、精神的な繋が


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