Created on September 25, 2023 by vansw

Tags: No tags

461


ちで彼女に少年のことを尋ねてみた。 主に家庭環境について。


「M**くんはお母さんに溺愛されているって、いつか言ってましたね?」


「ええ、そうです。ほんとに、まるで猫かわいがりをするみたいに、M**くんのことをかわい がっています」


「お父さんは?」


添田さんは小さく首を捻った。 「お父様のことは、私はよく知らないのです。 直接お目にかか ったことはありませんから。ただ、よそから耳にしたところでは、お父様はあの子にはそれほど 関心を抱いておられないのではないかということです。 あくまで又聞きですから、確かなところ はわかりませんが」


「あまり関心を抱いていない?」


「前にも申し上げたと思うのですが、 上のお兄さん二人は地元の学校でも素晴らしい成績をとっ ていましたし、東京の有名大学に進んで、文字通りエリート・コースを歩んでいます。 なにしろ 自慢の息子たちです。 どこに出しても恥ずかしくありません。 それに比べ、一番下の息子は地元 の高校に進学することもできず、毎日図書館に通って本ばかり読んで、なんだかわけのわからな いことを口にしています。 人前に出すこともはばかられます。 お父様はそのことを気にしておら れるようです」


「その人はこの町で幼稚園を経営しているということでしたね?」


「ええ、幼稚園を経営しておられます。なかなか立派な施設をもった幼稚園です。 幼稚園だけで はなく、他にも手広くビジネスを展開しておられます。 学習塾とか成人向けの教室とか、そうい


461 第二部