Created on September 25, 2023 by vansw
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だろう。とりわけ彼を溺愛している母親は......。 そのような事態を招くかもしれないことを、私 がしていいものだろうか。 いくら少年自身が真剣にそれを望んでいたとしても、またそれが少年 の人生にとってより自然な流れであるように思えたとしてもだ。それは人間としての道義に反す る行いではあるまいか?
私はそのことについて誰かに相談してみたかった。 たとえば子易さんに。 彼ならおおむね事情 を承知しているし、確かな知恵も持ち合わせている。 それについて有効な助言を私に与えること ができるかもしれない。しかし子易さんは 子易さんの幽霊は 長いあいだ私の前に姿を見 せていなかった。 ひょっとしたら、もう二度とその姿を目にすることはないかもしれない。 彼の 魂は既にこの地上を離れてしまったのかもしれない。 その可能性は少なくない。魂がこの地上に 留まっていられる期間は限定されていると彼は言っていた。 そして魂が人の姿かたちをとって現 れるのは、 決して容易いことではないのだと。
添田さんに相談してみることも考えたが、私が一時期、 高い壁に囲まれた街に住んでいたこと 普通の生活を送っている人にわかりやすく説明するのは、どう考えても至難のわざだ。 話が とても面倒になってしまう。彼女は少年の心配をするより前に、まず私の精神の状態を不安に思 うかもしれない。そう、あの街の話を持ち出すわけにはいかない。私がそこで見聞きし体験した ことを、そのまま受け入れ、理解してくれるのは今のところ、子易さんとイエロー・サブマリン の少年、その二人だけだ。
私は添田さんのところに行って、できるだけ暇そうな時間を見計らって、 世間話のようなかた
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