Created on September 25, 2023 by vansw

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の習慣的行為だったかもしれない。その違いは私にはわからない。


彼はハンカチーフを元のポケットにしまうと、ドアまで歩いて行ってそれを開き、後ろを振り 返ることもなく、 別れの挨拶らしきものをするでもなく、そのまま部屋から出て行った。 彼の背 後でドアが乾いた金属の音を立てて閉まり、私は部屋に一人きりで残された。


「ぼくがきみをそこまで連れて行く?」


一人になった私は小さな声で自分に向けてそう語りかけた。


そして自分が少年の手を引いて、街の門の前に立っている光景を思い浮かべた。「イエロー・ サブマリン」の緑色のパーカを着た少年は、迷うことなく私と別れ(後ろを振り向くこともな く)、そのまま門の中に足を踏み入れていくことだろう。


私がその門をくぐることはもう二度とあるまい。 私はそのための資格を既に剥奪されてしまっ ているのだから。 少年を見送り、門が再び閉ざされるのを見届けたあと、私はひとりでこちら側 の世界に引き返してくることだろう。


私は立ち上がって窓際に行き、窓を上に押し開け、そこから首を出して何度か深呼吸をした。 きりっとした冬の大気が肺をほどよく刺した。 それから私は無人の冬の庭を長いあいだあてもな く眺めた。 解け残った雪が、大地についた白いしみのようにところどころ固くこわばっていた。



それから数日はこともなく過ぎた。 晴れた日が続き、風も止み、明るい太陽が軒先に下がった 太いつららを次々に溶かしていった。 私は雪解けの滴りの音を窓の外に聞きながら、 机に向かっ


11 第