Created on September 25, 2023 by vansw

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うな街のあり方を、どこまで理解しているのだろう?


私はそのことを少年に詳しく語ろうかと思ったが、思い直してやめた。おそらくそんな事情は すべて既に承知しているはずだ。そして一切を呑み込んだ上で、 その街に行こうと心を決めたの だ。綿密に考え抜いた末に出した、変更の余地のない結論なのだ。 少年の迷いのない顔を見てい ると、決意の固さがわかった。 しかしそれでもなお私としては今一度、 彼の気持ちを確認せずに はいられなかった。


「その街に入るためには影を棄て、両眼を傷つけられなくちゃならない。 そのふたつが門をくぐ るための条件になる。 切り離された影は遠からず命を失うだろうし、影が死んでしまったら、き みはもうその街から出て行くことはできない。 それでかまわないんだね?」


少年は背いた。


「こちらの世界の誰とも、もう会うことができなくなるかもしれない」


「かまわない」と少年は声に出して言った。


私は深く息をついた。この少年はこの現実の世界とは心が繋がっていないのだ。彼はこの世界 に本当の意味では根を下ろしてはいない。 おそらくは仮繋留された気球のような存在なのだろう。 地上から少しだけ浮いたところで生きている。そしてまわりの普通の人たちとは違う風景を目に している。だから留めてある鉤を外して、 この世界から永遠に立ち去ってしまうことに、苦痛も 恐れも感じないのだ。


私は思わず自分のまわりを見回した。私はこの地上のどこかにしっかり繋がっているだろう か? そこに根を下ろしているだろうか? 私はブルーベリー・マフィンのことを思った。 駅前


けいりゅう


455 第二部