Created on August 29, 2023 by vansw

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った。あんたに会いたがっているらしい」


その日の午後、獣を焼く煙が立ち上るのを目にしてから、 門衛小屋を訪れた。 思ったとおり門 衛は壁の外に出て不在だった。 獣を焼くには時間がかかる。 私は小屋の中に入り、奥の裏口から 出て「影の囲い場」に入った。


私の影は自室のベッドに仰向けになって寝ていた。 部屋には薪ストーブがあったが、火は入っ ていない。空気は冷え冷えとして、病人のいる部屋特有のむっとするにおいがこもっていた。 壁 の上方に明かり取りの窓がついており、それは広場に面していた。 ランプも灯されていなかった から、部屋の中は薄暗かった。


私はベッドの脇に置かれた小さな椅子に腰掛けた。影は天井を見上げて、ゆっくり呼吸をして いた。たぶん熱のためだろう、唇は乾いて、ところどころかさぶたのようになっていた。呼吸を するたびに、喉の奥から小さなかすれた音が洩れた。 私は彼に対して申し訳なく思った。それは 少し前まで、まぎれもなく私自身の一部であったのだ。


「具合が悪いって聞いたよ」


「よくありませんね」と影は力のない声で言った。「そんなに長くは持ちこたえられないと思い 「ますよ」


「どこの具合が悪いんだ?」


「どこが悪いっていうものじゃありません。 寿命ってやつです。 影単体では長くは生きられない って、この前に言いましたよね。 本体から離された影なんて儚いものなんです」


はかな


場にふさわしい言葉が私には見つけられなかった。


123 第一部