Created on September 25, 2023 by vansw
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少年はメモ帳を手に取り、新しいページをめくり、そこにまたボールペンですらすらと字を書 いた。
終わらない疫病
「終わらない疫病」と私は声に出して読んだ。 「それはいったいどういうことなんだろう?」
やはり返答はない。だから私は自分の頭でその意味を考えなくてはならなかった。謎かけを解 いているみたいだ。 そしてそれはずいぶんむずかしい謎かけだ。謎の奥深さに比べて、与えられ たヒントが少なすぎる。 でも何はともあれ私はサーブされてきたボールを、相手のコートに打ち 返さなくてはならない。 それがゲームのルールだ。もしそれをゲームと呼ぶことができるなら。 私は思い切って言った。「実際の疫病ではない疫病。 つまり比喩としての疫病・・・そういうこ とだろうか?」
少年はごく小さく肯いた。
「それはひょっとして、魂にとっての疫病というようなことなのだろうか?」
少年はもう一度肯いた。 こっくりと確かに。
私はそれについてしばらく思考を巡らせていた。魂にとっての疫病。それから言った。
つかさど
「街は、というか当時の街を司っていた人々は、外の世界で蔓延する疫病を閉め出すことを目的 として、高い頑丈な壁で街のまわりを囲った。 ぴったり隙間なく封をするみたいに。そのように 誰ひとり中に入れず、誰ひとり外に出さない強固な体制が整えられた。 その壁の構築にはおそら
449 第二部