Created on September 25, 2023 by vansw
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かるみたいだ」
「コーヒーのお代わりはいかがですか?」と彼女は私に尋ねた。 私は肯いた。
「水曜日の子供は苦しいことだらけ」 と私は独り言のように言った。
少年はダウンジャケットのポケットから大判の封筒を取り出し、私に手渡した。 そして手渡し たことを確認するようにひとつ青いた。私はそれを受け取り、同じようにひとつ肯いた。西部劇 映画に出てくる、アメリカ・インディアンの煙管の受け渡しみたいに。
きせる
「よかったら、マフィンを食べていかないか?」と私は少年に尋ねてみた。「ここのブルーベリ ・マフィンはとてもおいしいよ。 作りたてだし」
しかし私の言ったことが耳に入ったのか入らなかったのか、彼はそれには返事をせず、しばら く私の顔をじっと見上げていた。 私の顔が発する何かしらの情報を、記憶に正確に刻み込もうと するみたいに。 金属縁の丸い眼鏡が天井の照明を受けてきらりと光った。それから少年はくるり と背中を向けて、無言のまま戸口に向かい、ドアを開けて店から出て行った。 はらはらと舞う細 かい雪の中に。
「お知り合いなんですか?」と彼女がその後ろ姿を見送りながら私に尋ねた。
「うん」と私は言った。
「なんだかちょっと不思議な子みたいですね。ほとんど口もきかないし」
「実を言うと、ぼくもやはり水曜日の生まれなんだ」と私は言った。話題を少年から逸らすため に。
「水曜日の子供は苦しいことだらけ・・・・・・」と彼女は真剣な顔つきで言った。「さっきそう聞こえ
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