Created on September 25, 2023 by vansw

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また「どのような表現行為にも批評は必要とされる」という一般原則もある。それに加えて私に は、何らかのかたちで少年とコンタクトをとっておく必要があった。 ボールがこちらにサーブさ れたら、そのボールは打ち返されなくてはならない。それがルールだ。


私はその訂正の書き込みをした地図のコピーを封筒に入れ、封をして添田さんに渡した。手紙 はあえて同封しなかった。 封筒に入っているのは一枚の地図だけ――少年が私にそれを送ってき たときと同じように。


「もしあの少年が姿を見せたら、これを渡してほしいんだけど」


添田さんはその封筒を手に取り、点検するようにしばらく眺めた。 封筒には表にも裏にも、字 は書かれてはいない。 「何か言い添えることはありますか?」


とくに言い添えることはない、と私は言った。「ただ私から預かったと言って渡してくれれば、 それでいい」


「わかりました。そうします。 そろそろ回復してここに姿を見せる頃合いだと思います。 これま でのケースから言って」


その二日後、添田さんが私の部屋に顔を見せた。


「今朝、M**くんがやって来たので、お預かりした封筒を手渡しておきました」と彼女は言っ た。「彼は何も言わずに封筒を受け取り、そのままナップザックに入れました」


「封は切らなかった?」


「ええ、封は切らずにしまい込みました。そのあとも封筒をナップザックから出した形跡はあり


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