Created on September 25, 2023 by vansw

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なものはもたれなかったのか、私にはわかりません」


「でも彼は子易さんにある程度なついていた?」


「なついていたという表現が適切かどうかわかりません。 しかしとにかく、二人きりで長い時間 ひとつの部屋に閉じこもる程度には心を許していたということになりますし、あの子にとって、 そういうのはずいぶん特別なことなのです」


私にはどうしても知らなくてはならないことがひとつあった。 しかし彼女にこの今(正午前の 陽光が差し込む、明るい図書館のカウンターで)、 正面切ってその質問を投げかけるのが妥当な おこないであるのかどうか、私には今ひとつ自信がなかった。 それでも思い切って尋ねてみるこ とにした。 可能な限り簡潔な表現を用いて。


「ねえ添田さん、子易さんが亡くなったあとも、二人は会っていたと思いますか?」


添田さんは真剣な目で数秒間、まっすぐ私の顔を見ていた。 細い鼻筋が僅かに動いた。 それか ら言葉をひとつひとつ区切るようにして、私に尋ねた。


「あなたがおっしゃるのはつまり、子易さんの幽体と姿かたちをとった彼の魂とIM ** くんとが、子易さんの死後もどこかで会って、生前と同じようにコミュニケーションをとり続け ていたかどうか、そういうことですか?」


私は肯いた。


「そうですね、それはおそらくあり得ることです」と添田さんは少し考えたあとで言った。 「十 分あり得ることだと私は思います」


425 第二部