Created on September 25, 2023 by vansw

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ている。私はおそらくはそのような薄暮の世界に置かれているのだろう。どちら側ともはっきり とは判じられない微妙な場所に。 そして私はなんとか見定めようとしている。 自分が本当はどち ら側にいるのか、 そして自分が自分という人間のいったいどちら側であるのかを。


私は机の上の封筒をもう一度取り上げ、中から地図を取り出し、長いあいだ集中して見つめた。 そしてやがて、その地図が私の心を細かく震わせていることに気づいた。比喩的にというのでは ない。文字通り物理的にそれは私の心を静かにしかし確実に、ぶるぶると震わせているのだ。 揺 れやまぬ地震の中に置かれた、ゼリー状の物体のように。


その地図を見つめているうちに、私の心は知らず知らずもう一度その街へと戻っていった。目 を閉じると、私はそこを流れる川のせせらぎの音を実際に耳にし、夜啼鳥たちの悲しげな夜更け の声を聞くことができた。 朝と夕刻に門衛の角笛が鳴り響き、単角獣たちの蹄が石畳を踏む、か つかつという乾いた音が街を包んだ。私の隣を並んで歩く少女の黄色いレインコートがかさこそ と音を立てた。 世界の端っこを擦り合わせるような音だ。


現実が私のまわりで、小さな軋みを立てて僅かに揺らいだようだった――もしそれが本物の現 実だったとすればだが。


421 第二部