Created on September 25, 2023 by vansw

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きしたような簡単なスケッチではあったけれど、実際の時計台によく似ていた。そして針を持た なかった。とはいえ、私の記憶があとになって改変を受けていないという保証はない。その前後 の理屈はよくわからないが、少年の描いた地図に合わせて、私の記憶が微妙に作り替えられてい くという可能性だって考えられなくはないだろう。


考えれば考えるほどわけがわからなくなる。 何が原因で何が結果なのか? どこまでが事実で どこからが推論なのか?


私はその地図をいったん封筒の中に戻し、それを机の上に置き、首の後ろで手を組み、そのま ましばらくぼんやりと宙を見つめていた。 地面すれすれの横長の曇った窓から、午後の光が淡く 差し込み、部屋の空気には薪に使っている林檎の木の匂いがほんのりと漂っていた。 燃えさかる ストーブの上で、黒い薬罐がふっと音を立てて白い湯気を吐いた。まるで眠っている大きな猫が、 深い眠りの中でひとつ吐息を吐くみたいに。


私のまわりで、何かが徐々に形をとりつつあるという漠然とした感覚があった。 私はあるいは 自分でも気づかないまま、何かの力によって、どこかにじりじりと導かれつつあるのかもしれな い。しかしそれが最近になって始まったことなのか、それともかなり前から徐々に継続して進行 してきたことなのか、それがわからない。


私にかろうじてわかるのは、自分が現在おそらくは「あちら側」と「こちら側」の世界の境界 線に近いところに位置しているらしい、ということくらいだった。ちょうどこの半地下の部屋と 同じだ。それは地上でもないし、かといって地下でもない。そこに差し込む光は淡く、くぐもっ


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