Created on September 25, 2023 by vansw

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その地図を前に、私は長いあいだ言葉を失っていた。


そう、それは間違いなく、 あの高い煉瓦の壁に囲まれた街の地図だった。


腎臓の形に似た外周(下の部分にへこみがある)、緩やかに蛇行しながら街の中央を横切って 流れる一本の美しい川。 不気味な深い溜まりとなったその流れの出口。 唯一の出入り口である門。 その内側にある門衛小屋。川にかかる三本の古い石造りの橋(どれほど古いのかは誰も知らな い)、水の干上がった運河、針のない時計台、そして一冊の書物も置かれていない図書館。


ほとんど略図に近いシンプルな地図だった(それは中世ヨーロッパの本に出てくる素朴な版画 を思い起こさせた)。 そしてよく見ると、細部にいくつかの間違いは見受けられた(たとえば川 の中州は実際よりずっと小さく描かれていたし、数も少なかった)。しかしそれでも基本部分は 驚くほど正確だった。なぜあの少年は、まだ見たこともない(はずの)街の地図を、このように ほぼ正確に描くことができたのだろう? 私だって自分なりに街の地図をつくろうと何度も試み て、どうしても果たせなかったというのに。


考えられるのは、彼が墓地のどこかに身を潜め(私がその存在に気づいたとき以外にも、私


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