Created on September 25, 2023 by vansw

Tags: No tags

417


私は封筒を机の上に置いたままストーブの前に座り、炎を見つめた。炎はまるで生き物のよう


はかな


だ。熟達した踊り手のように細かく身を震わせ、大きく揺らし、時に深く儚いため息をつき、低 く沈み込み、それからまた素速く身を起こした。 何かを雄弁に語りかけたかと思うと、すぐさま 用心深く聞き耳を立てた。 目を鋭く吊り上げ、ぎょろりと丸め、そして堅くつむった。 私は炎の そんな姿を注意深く観察していた。 それが何か大事なことを私に教えてくれるのではないかと期 待して。 しかし彼らは何ひとつ私には教えてくれなかった。 ヒントさえ与えてはくれなかった。 ただ時間が無音のうちに経過しただけだ。でもそれでかまわない。私が必要としたのは適切な時 間の経過だった。


私は机の前に戻り、大判の封筒を手に取った。 そして鋏を使って、 中身を損なわないように注 意深く封を切った。 中には予想したとおり、A4の用紙が一枚入っているだけだった。 封筒が空 でなかったことを知って、私は少しだけほっとした。 もし空っぽであったなら、その中に入って いるのがただの無であったとしたら、私は少なからず混乱をきたしていただろうから。


私はその白いタイプ用紙を封筒から注意深く取り出した。 紙には黒インクで、何かの図が細か く描かれていた。 文章はない。私はその図を机の上に広げて眺めた。 そして息を呑んだ。 何か堅 いもので背中を思い切り打たれたような強い衝撃があった。 その衝撃は私の身体の中からあらゆ る論理を、あらゆる脈絡をきれいにたたき出してしまった。 部屋全体がぐらりと揺れるような物 理的な感覚があった。 私はバランスを崩し、両手で机をしっかり掴んだ。 そしてそのままいっと き言葉を失い、思考の道筋を見失った。


その紙に描かれているのは、高い壁に囲まれたあの街のほぼ正確な地図だった。


417 第二部