Created on September 25, 2023 by vansw
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ーカーから流れるエロール・ガーナーの『パリの四月』を聴くともなく聴いていた。それが毎週 月曜日の私のささやかな習慣になっていた。 同じことの繰り返し、先週の自分の足跡をたどって いるだけだ。なにもイエロー・サブマリンの少年に限った話じゃない、考えてみれば私の生活だ って、同じことの繰り返しみたいなものではないか。 あの少年と同じように、反復こそが私の人 生の重要な目的になりつつあるのかもしれない。
服装からしてそうだ。 会社に勤めている頃は、服装にはいつも細かく気を配っていたものだ。 シャツには自分でアイロンをかけ (毎週日曜日に私はシャツにまとめてアイロンをかけた)、毎 日新しいものに取り替えていた。 ネクタイも色や柄をそれに合わせて選んでいた。 しかし会社を 辞め、この町に引っ越してきてからは、自分が今どんな服を身につけているか、それすらろくに 思い出せないような状態になっていた。ふと気がつくと、一週間同じセーターを着て、同じズボ ンをはいていたこともあった。 そして私はそのことに自分がずっと同じ服を身につけていた ことに 同じ「黄色い潜水艦」のヨットパーカばかり着ている少年 気づきもしなかったのだ。 のことをとやかく言えた筋合いではない。
とはいえそのような服装への関心の欠如が、 私の日常生活がだらしなくなったことを意味して いたわけではない(はずだ)。 私は今までどおり身辺の清潔さには十分気を配っていた。 毎朝き れいに髭を剃り、下着をとりかえ、毎日髪を洗った。 一日に三度は歯を磨いた。 相変わらず私は 習慣を大事にする清潔な独身者だった。 ただふと気がつくといつも同じセーターやズボンばかり 身につけていたということだ。私はそのように同じ服を着続けることに、無意識的にではあるが、 ある種の快感さえ覚え始めているようだった。
413 第二部