Created on August 29, 2023 by vansw
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季節も違っている。
道は次第に登りになり、岩場が険しくなり、蛇行する川を眼下に見るようになる。密に繁った 樹木で視界が遮られ、川の流れが見えなくなることが多くなる。 空には鉛色の雲が低く垂れ込め、 今にも雨か雪が降り出しそうだったが、その心配はないと君は前もって断言していた。だから傘 も雨具も用意してこなかった。 この街の人々はなぜか、天候の予測に関しては誰もがそれぞれに 強い確信を持っている。そして私の知る限り、彼らの予測が外れたことはない。
凍りついた三日前の雪が、靴底に踏まれてぱりぱりと音を立てる。 途中で何頭かの獣たちとす れ違う。彼らは痩せた首を力なく左右に振り、半ば開けた口から白い息を吐きながら、足取りも 重く小径を歩いている。 そして夢見るような虚ろな目で、今は乏しくなった木の葉を探し求めて いる。彼らの黄金色の毛は冬が深まるにつれて、雪に同化するかのように、脱色された白へと変 化していった。
急な坂道を登り切って南の丘を越えると、獣たちの姿はもう見えなくなる。 獣たちはその先の 領域には足を踏み入れないことになっている 君がそう教えてくれる。壁の中の獣たちは、い くつもの細かいルールに沿って行動していた。彼らのルールだ。いつどのようにそんなルールが 確立されたのか、誰にもわからない。またルールの多くは存在理由や意味を解しかねるものだっ た。
しばらく坂道を下ったところで、それとわかる小径は終わり、その先は草の茂った曖昧な踏み 分け道になる。川はもう視界から姿を消して、水音も聞こえない。 我々は足元に気をつけながら、 人気のない枯れた野原を越え、何軒かの廃屋の前を通り過ぎる。そこにはかつては小さな集落が
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