Created on September 21, 2023 by vansw
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とするような人はいません。 それは悲しいことです。実際にはとてもおとなしい子供だし、 生年 月日を尋ねてまわることを別にすれば、誰に迷惑をかけるわけでもないのですが」
「で、学校に通うかわりに、この図書館にやって来て、毎日手当たり次第に本を読んでいる。 で もいったい何のためにそれほど大量の知識を取り込まなくちゃならないのかな?」
「さあ、それは私にもよくわかりません。おそらく誰にもわからないのではないでしょうか。 た だ知識に対するあくなき好奇心が彼にそうさせているとしか、私には言えません。そのような知 識の膨大な詰め込みが、あの子に良き結果をもたらすのか、 それとも何か問題をもたらすのか、 それも判断できません。 知識の蓄積容量に限度みたいなものがあるかないかも不明です。 わから ないことだらけです。 でもなんといっても、知識欲そのものは意味ある大切なことですし、 そう いうものを満たすために図書館は存在しているわけですから」
私は背いた。そのとおりだ。 人々の知識欲を満たすために図書館は存在している。その目的が いかなるものであれ。
「でもそういう子供を受け入れてくれる学校も、どこかにあるはずだけど」と私は言った。
「はい、そういう専門的な学校はいくつか存在するようです。 しかし残念ながらこの近辺にはひ とつもありません。 そういう学校に入ろうとすれば、どうしてもこの町を離れなくてはなりませ ん。たぶん寄宿舎のようなところに入って。でも母親は彼を溺愛し、とても大事にされていまし て、決して自分のもとから手放そうとはしません」
「だからこの図書館が学校代わりになったわけだね」
「はい、その母親が子易さんと昔から懇意にしておられて、 直接お願いに見えたのです。 あの子
393 第二部