Created on September 21, 2023 by vansw
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まず進めません」
「なるほど」と私は言った。 「でも本を読むのはずいぶん好きなようだね」
「ええ、本を読むのはとても好きで、毎日のようにこの図書館に来て、すごいスピードで本を読 みあさっています。 この分でいけば、今年中にはこの図書館の蔵書をほとんど読み切ってしまう かもしれません」
「どんな本を読むのだろう?」
「あらゆる本です。基本的にはどんな本でもいいみたいで、とくに選り好みはしません。まるで 栄養ドリンクでも飲むみたいに、そこにある情報を片端から吸収していきます。 それが情報であ れば、どのような種類のものであれそのままそっくり身につけていきます」
「それは素晴らしいことだけど、情報によっては危険な場合もあるかもしれないね。 つまり、取 捨選択がうまくできなければ、ということだけど」
「ええ、おっしゃるとおりです。 だから私は、彼の読む本を、貸し出す前にひとつひとつ点検す るようにしています。 そして問題を引き起こしそうな情報を含んだ本であれば、取り上げるよう にしています。たとえば過度の性的描写や暴力描写を含むようなものであれば・・・・・・ということで 「すが」
「そんな風に強制的に本を取り上げて、問題は起こらないのかな?」
「大丈夫です。 あの子は私の言うことは、基本的に素直に聞いてくれますから」と添田さんは言 った。「実を言いますと、あの子がこの町の小学校に通っているとき、私の夫が二年間担任をし ていたのです。だから小さい頃からあの子のことはよく知っています。 夫はあの子のことをとて
391 第二部