Created on September 21, 2023 by vansw

Tags: No tags

388


輝きだ。 深い穴の底にある何かを、じっと集中して覗き込んでいるような・・・・・・あるいは私がその


「深い穴の底にある何か」なのかもしれない。


「生年月日?」と私は聞き返した。


「はい、あなたの生まれた年月と日です」


私は少し困惑したものの、それでも生年月日を彼に教えた。 その少年が何を求めているのかは わからないが、生年月日を教えて、それでとくに害があるとは思えなかった。


「水曜日」と少年はほとんど即座に宣言した。


私は意味がわからず、顔を僅かに歪めた。 その私の表情は少年の心を少し乱したようだった。 「あなたの誕生日は、水曜日です」と少年は言った。 本当はいちいちそんなことまで説明したく ないのだが、といういかにも素っ気ない口調で。 そしてそれだけを告げると、さっさと歩いて 覧室に戻り、窓際の机の前に座って読みかけていた分厚い本を読み始めた。


何が起こったか呑み込むのに少し時間がかかった。それからはっと思い当たった。 この少年は おそらく 「カレンダー・ボーイ」なのだろう。 過去未来いつでもいい、日付を言えば、それが何 曜日だったかを一瞬にして言い当てる。そういう特殊能力を持っている。 一般的には「サヴァン 症候群」と呼ばれている。映画「レインマン」に出てきたキャラクターもそんな一人だった。 知 的障害を負っている場合も多いが、数学や芸術の分野でしばしば通常では考えられない特異な能 力を発揮する。


インターネットで自分の誕生日が本当に水曜日かどうか確かめてみたかったが、図書館にはコ ンピュータはなかったからそれは果たせなかった(その日帰宅してから自分のパソコンを使って


388