Created on September 21, 2023 by vansw

Tags: No tags

377


弾き返したそのバネは、あなた自身の内側にある特殊な力でしょう。 あなたの心の底にある強い 意思が、その大いなる往き来を可能にしたのです。 ご自身の論理や理性を超えた領域で」


「子易さんにはそれがおわかりになる?」


「いいえ、それはわたくしの個人的な推しはかりに過ぎません。たいしてあてにならんかもしれ ません。しかしわたくしはこの肝に感ずることができるのです(死後の魂に肝があるかどうか 少々疑問ではありますが)。はい、それはしっかり起こりうることなのです。もちろん誰にでも 起こることではありません。しかしいつかどこかで起こりうることです。 強い意思と、純粋な想 いがあれば」


「ひとつあなたに質問があります」 と私はしばらく考えたあとで言った。


「はい、おっしゃってみてください」


「子易さんは、 亡くなった奥さんとお子さんのことを愛されていた。 深く心から愛されていた。 そうですね?」


子易さんはまたこっくり背いた。「はい、そのとおりです。 わたくしのつたない人生において、 その二人以上にわたくしが愛した相手はおりません。 それは間違いのないところです」


「あなたはその二人と実際に家庭を築き、その愛をしっかりと育まれていた。安定した実りある 「愛です」


11 第


「ああ、口はぼったいようですが、おっしゃるとおりです。 もちろんわたくしどものささやかな 家庭において、すべてが完璧であったわけではありません。 いくらかの日常的な問題は存在しま した。 しかし些末なあれこれを抜きにすれば、そこにあったのは実りある、豊かな愛でした」


377 -