Created on September 21, 2023 by vansw

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として、こちらに帰還するのは至難のわざです。 普通ではまずできんことです」


「しかし、どうして、どうやってこちらに戻ってきたのか、自分でもまるでわからないのです」 と私は正直に言った。「私の影は私に別れを告げ、深い溜まりの中に単身飛び込み、恐ろしい地 下の水路に吸い込まれていきました。 彼はしっかり心を決め、多大な危険を冒してこちらの世界 に戻ろうとしたのです。 でも私は考えに考えた末、あちらの世界にその高い壁に囲まれた街 に居残ることを選びました。 でも次に目覚めたとき、 たりを見回すと、私はこちらの世界 に戻っていました。 そして私の影は再び私の影になっていました。何ごともなかったかのように。 まるで私が長い鮮やかな夢でも見ていたかのように。でも、 いいえ、それは夢ではありません。 私にはそれがよくわかっています。 たとえ誰が夢だと思い込ませようと努めているとしても」 子易さんは腕組みをして目をつむっていた。 私の話に深く耳を傾けているのだ。私は話し続け た。


「どうしてそんなことになったのか、わけがわかりません。私は自分の意思で、あちらの世界に 居残ることを決めたのです。 しかし思いに反してこちらの世界に戻ってきてしまいました。 まる で強いバネに弾き返されるみたいに。それについてずいぶん考えを巡らせてみたのですが、 結局 のところ、私の意思を超える何らかの別の意思がそこに働いていたとしか思えないのです。 しか しそれがいかなる意思なのか、私には皆目わかりません。 そしてまたその意思の目的も」


「あなたがそもそもその街に入っていけたのも、つまり、その何らかの意思が働いていたからな のでしょうか?」


「おそらくそうでしょう」と私は言った。「ある日、深い昏睡から目覚めると、見覚えのない穴


375 第二部