Created on September 17, 2023 by vansw

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って指示していたのかもしれないが)。


装飾を排したどこまでもシンプルな墓石だった。「2001年宇宙の旅』 に出てくるモノリス のようなのっぺりとした扁平な石にそれがずいぶん高価な石であることは一目見て推測でき たが三人の名前が率直な書体で刻まれていた。


子易辰也


子易観理


子易森


ふりがなはふられていなかったが(ふりがなのふられた墓石はまだ見たことがない)、奥さん の名前はきっと「みり」と読むのだろう。それ以外の読み方を私は思いつけなかった。「こや す・みり」と私は何度か静かに口に出してみた。 「理を観る」、なかなか奥深い名前だ。 そしてそ のような名前をつけられた女性が、最後には自らの命を絶たなくてはならなかったというのは、 考えてみれば悲しいことだ。



三人の名前の下には、 それぞれの生年と没年が鮮やかに刻まれていた。 妻と子供の没年は同じ だ。 添田さんが語ってくれた話のとおり、時をほぼ同じくしてその二人はこの世を去ったのだ。 一人は道路でトラックにはねられ、一人は増水した川に自ら身を投じて。 そしてあとに一人残さ れた子易さんの没年は、その後長い歳月を経た昨年になっていた。私は墓石の前に立って、長い 間その数字を眺めていた。 数字自体が多くのことを雄弁に語っていた。ときには言葉よりも数字



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