Created on September 17, 2023 by vansw
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に励んだ。くちばしの黄色い冬の鳥が甲高い声で空気を切り裂き、松の大枝に積もった雪が時折 重く湿った音を立てて地面に落下した。 まるで力尽きて手を離した人のように。 軒先からは長さ 一メートル近くあるつららが、陽光を受けて凶器の鋭い光を放っていた。
わずら
このままどんどん雪が降り積もってくれればいいのだがと私は密かに願った。そうすれば身の まわりの面倒な事柄について考えあぐねることもなく、 魂のあり方について思い煩うこともなく、 頭をただからっぽにして雪かきシャベルを手に、日がな肉体労働に従事していられる。そういう のがまさに、現在の私が求めている生活なのかもしれないもちろんあちこちの筋肉がその重 労働に耐えられる限りということだが。
シャベルで雪をすくってカートに入れながら、飢えと寒さのために命を落としていった単角獣 たちのことを思い出さないわけにはいかなかった。 冬の夜が明けると、彼らのうちの何頭かはそ の居留地の地面に白い雪の衣をかぶって横たわっていた。ほかの誰かの罪を背負って身代わりに 死んでいった人たちのように。あの街では雪はこれほど深く積もらなかったが、それでもしっか り致死的な効果を発揮していた。
白い雪に囲まれた場所に一人で立って、頭上の真っ青な空を見上げていると、ときどき私には わからなくなった。 自分がこの今いったいどちらの世界に属しているのかが。
ここは高い煉瓦の壁の内側なのか、それとも外側なのか。
図書館休館日にあたる月曜日の朝、添田さんに描いてもらった地図を持って、子易さんのお墓
361 第二部