Created on September 17, 2023 by vansw
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あるいはより上級者の助力みたいなものをそれがどんなものかはわからないが借りない
ことには、かなわないものなのだろうか。
もちろんそんなことは私には知りようもない。 私は子易さんの幽霊に出会う以前に、幽霊に類 するものを目にしたことは一度もなかったし(なかったと思う。 あるいは見ていても気がつかな かっただけなのかもしれないが)、ましてや死者と会話を交わした経験もない。幽霊がどのよう な過程を経て幽霊になるのか、どこでどうやってその「資格」を得るのか(あくまで個人的な推 測に過ぎないが、すべての死者が幽霊になれるわけではないはずだ)、 そんなことはいくら考え てもわかるはずはない。論理的に思考を積み重ねて、その結果具体的な解答が出てくるという種 類の問題ではないからだ。
だいいちに魂が何かということすら、私には把握できていないのだ。もし魂というものが実在 するなら、それは無形で透明で空中にふわふわと浮遊しているものだろうという漠然とした印象 を私は持っていた。しかし考えてみれば、そんなものはただの思い込みに過ぎない。「神様は長 い顎髭を生やして、杖をついた白髪の老人で、白い衣服を身に纏っている」というのと同じ程度 の、ステレオタイプの刷り込みでしかない。
子易さんの魂は意識を有しており、その意識に従って行動している。どう見てもそのことに疑 いの余地はない。 「意識とは、脳の物理的な状態を、脳自体が自覚していることである」という
誰かの定義を子易さんは引用した。 そして既に脳を持たない魂が(つまり彼自身が) そのように 第
いまだに意識を有して行動していることに、根源的な疑問を抱いていた。困惑していたと言って
もいいかもしれない。 そう、死者の魂自身にだって、魂の成り立ちはよくわかっていないのだ。
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