Created on September 17, 2023 by vansw

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か?


わからないことだらけだ。私はその手書きのメモを見ながらため息をついた。 論理の順序が明 らかに入り乱れている。 原因と結果の前後関係が見定められない。 この前この小部屋で子易さん に会ったとき、 彼は私に「影を一度なくしたあなたには、その資格があるのです」と言った。 正 確な言葉は思い出せないが、だいたいそのようなことが口にされた。以来その「資格」という言 葉が私の脳裏にこびりついていた。その言葉の響きが私を不穏に揺さぶっているようだった。 資格?と私は思った。それはいったい何の資格なのだろう。


薄暗い半地下の部屋で薪ストーブを燃やし、ちらちらと揺れる炎を眺めながら、子易さんの幽 霊が現れるのを待ち続けた。 彼に尋ねなくてはならないことがいくつもあった。


何かが私を導いてここに来させた。私は何かに導かれてここにやって来たのだ。間違いなく 私はそう感じている。しかしその意味が判読できない。何かとは何のことなのだ? そして 私がここに導かれたことにどのような意味が、あるいは目的があるのだろう? 私はそれを彼に 尋ねてみたかった。 答えが返ってくるかどうかまではわからないけれど。


しかしどれだけ待ち続けても、子易さんは子易さんの魂は私の前に姿を見せてくれな かった。 私を呼び出す電話のベルも鳴らなかった。


無形の魂となった死者は、何らかの姿かたちをとって――つまり幽霊みたいなものとして―― 人前に現れたいと望んだとき、あるいはそうする必要に迫られたとき、自らの自由意志で、自前 の力でいつでもそうできるものなのだろうか。 それとも外部から何かしらの作用が働かないと、


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