Created on September 17, 2023 by vansw
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子易さんはそれとも彼の魂はと言うべきなのだろうかそれからしばらく私の前に姿を 見せなかった。私は図書館の奥の半地下の部屋にこもって、 図書館長としての仕事を日々こなし ていた。 ときどき閲覧室に顔を出し、 添田さんや、ほかの働いている女性たちと会話を交わした り、雑誌や本を読んでいる人々の様子を観察したり、顔見知りの人を見かければ簡単な挨拶をし たりしたが、おおむねのところ私は温かい薪ストーブの前で、小さな机に向かって一人で事務的 な作業に勤しんでいた。
細かい事務的な案件の処理のほかには、 未整理の蔵書を分類し、 系統化して目録に載せていく のが、私が自分に課した主な仕事だったが、 コンピュータ化を断固拒絶した子易さんの方針のせ いで(その方針は職員たちの強い要望によって、死後も堅固に受け継がれていた)、作業は手間 取り、難航した。 キーボードではなく馴れないボールペンを使うせいで、右手の指が痛くなった。 それでもコンピュータのない職場はそれなりに新鮮で、違う世界にふと迷い込んだような不思議 なずれた感覚があった。
それと同時に私には、図書館の現行の運営システムを段階的に改変していくという責務も与え
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