Created on September 17, 2023 by vansw
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を集め、この館長室のデスクの上に積んでおきました。 子易さんはどうやら私のいないところで それらに目を通されたようで、その中からあなたを選び出されたのです。そしてある日私の前に 姿を現し、 この人を図書館長とするようにとおっしゃいました。 私にはもちろんそれに反対する 理由などありません。 子易さんは元気で生きておられるうちから、ほどなく訪れるであろうご自 分の死を予知しておられたかのようでした。 自分のあとを誰が継いで図書館長になるかというこ とを大事に考えておられたのですね。だからこそ理事会あてのそのような指示書を、前もって 怠りなく用意しておられたのでしょう」
「しかしどうして私でなくてはならなかったのだろう。この私のいったいどこが、彼の意にかな ったのでしょう?」
添田さんは首を横に振った。 「それはわかりません。 子易さんはあなたを選ばれた理由を、私 に教えてくださいませんでした。私はただ、この人に決めなさいと子易さんに言いつけられた だけです」
「その子易さんの幽霊は、しばしばあなたの前に姿を見せたわけですか?」
部
添田さんは小さく首を振った。 「しばしばというほどではありません。時に応じて必要に応じ て、姿を見せられただけです。 彼は私の前ににこやかに現れ、二階の館長室に来るように指示な さいます。 子易さんの姿は、ご本人がおっしゃったように私にしか見えません。その声は私にし か聞こえません。ですから私は何もなかったようなふりをして、周囲の人々には気取られないよ うにそっと階段を上り、館長室に入ります。 そしてドアを閉め、二人でお話をします。 生きてら したときと同じようにです。 子易さんはデスクのそちら側に座られ、私はこちら側に座ります。
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