Created on September 17, 2023 by vansw
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図書館運営に関する具体的な指示でした。 細かい個別的な指示が箇条書きに列挙されていました。 図書館長職に関しては、自分がいなくなったあと、新聞広告を出して外部から一般公募すること と記されていました。 そしてその人選については私、つまり添田に一任するとありました。
私はそれを声に出して読み上げながら、驚いてしまいました。 どうして一介の司書に過ぎない 私に、そのような重大な任務が一任されたりするのだろうと。 理事のみなさんもきっと驚かれた と思うのですが、明確にそのように書簡に記されていますから、従わないわけにはいきません。 もちろん私が選んだ人物を理事会が承認するという段取りを踏むことになっていますが、いちお う形式だけのことです」
「あなたは子易さんの指示通り図書館長を募集する新聞広告を出し、 それに私が応募し、あなた が選考をおこなって、その結果私が採用された。そういうことですね?」
「はい、そうです。 というか、いちおう表向きはそうなっております。 しかし実際には、正確に 申し上げればそうではありません。 全国から数多くあった応募の中から、あなたを選ばれたのは、 実は子易さんだったのです。 彼があなたを指名し、私がその結果をあくまで私が選考したと いうかたちで理事会に報告いたしました。 死者が後任の館長を選んだというわけには参りま せんから、生きている私がその役をかたちばかり代行したわけです。 腹話術師に言われるがまま 口を動かす人形のように。 そして理事会の形式的な承認を得て、あなたが図書館長に就任される ことになりました。
私の役目は、子易さんが下された決定をそのまま理事会に伝えるというだけのことでした。 私 は子易さんに前もって指示されたように、応募してきた人たちの履歴書とそれに添えられた手紙
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