Created on September 17, 2023 by vansw
351
「それからあなたはこの館長室に入って、 デスクの抽斗をあらためられたわけですね?」
「はい、翌朝一番、ここに来て金庫を開きました」
私はデスクの抽斗を開け、そこに黒い金庫が入っていることを確かめた。蓋はロックされてお らず、中には何も入っていなかった。
「教えていただいた暗証番号で、 金庫の蓋は開きましたし、金庫の中には言われたとおりのもの がすべて収められていました。 ええ、そうです、 それは夢なんかではなかったのです。 子易さん は本当にこの世界に戻ってこられたのです。 ご自分が亡くなってしまってからも、図書館が円滑 に運営されるようにしておくことが、子易さんにとっての差し迫った大事な使命であったのです。 それが幽霊だったとしても、ちっとも怖くなんかありません。どのようなかたちであれ子易さん にお会いできたのはなにより嬉しいことでしたし、それによってこの素敵な図書館の秩序が今ま でどおりに保たれるのだとしたら、ただ感謝の念あるのみです」
「そしてあなたは理事会を招集し、子易さんの遺された指示書を、全員の前で読み上げられたの ですね」
「はい、指示された通りにいたしました。 理事会ではまず弁護士の先生から、 子易さんが遺され た財産の配分についての説明がありました。 遺言状によれば、子易さん個人名義の現金、株式、 不動産、生命保険などすべてが財団に寄付されることになっていました。 そして財団図書館を 運営します。つまり子易さん個人を失ったことは、私たちにとって計り知れぬ喪失ではあります が、図書館運営にとっては大きな財政的寄与となったわけです。
それに続いて理事会あての書簡が理事全員の前で読み上げられたのですが、内容は主に今後の
(19
351 第二部